AIの研究開発と社会実装に向けた具体的な取組みについては、CSTIの下部にある「人工知能技術戦略会議」が司令塔機能を有している。
同会議は平成28年4月に開催された「未来投資に向けた官民対話」における総理指示を受けて創設された会議体であり、基盤省庁(総務省・文部科学省・経済産業省)が所管する5つの国立研究開発法人を束ねて研究開発を進めるとともに、AIを利用する側の出口省庁(農林水産省・厚生労働省・国土交通省)や内閣府と連携して、AI技術の社会実装を進めている(図4-5-6)。
■図4-5-6人工知能技術戦略会議の連携体制
人工知能技術戦略会議は、AIの研究開発から社会実装まで一貫した取組みを加速させるべく、平成29年3月に「人工知能技術戦略」を策定した。
また、同戦略の取組み進捗や課題を踏まえ※86、取組み内容を具体化した「人工知能技術戦略実行計画」を、平成30年8月に公表した。
同計画では、人工知能技術戦略で定められた5つの施策について、統合イノベーション戦略と軌を一にするように、関係各府省庁の具体的な取組み内容が示されている(表4-5-1)。
達成時期については、統合イノベーション戦略と同様、特に②人材育成への対応が急務とされている。
■表4-5-1人工知能技術戦略実行計画の概要
人工知能技術戦略会議の運営は、研究の総合調整を担う「研究連携会議」、研究開発と産業の連携総合調整を担う「産業連携会議」及びAI技術やAI開発等において考慮すべき倫理等を議論するための「人間中心のAI社会原則検討会議」の3つの会議体を軸として行われている。
研究連携会議には、総務省の所管する情報通信研究機構(NICT)、文部科学省の所管する理化学研究所(理研)と科学技術振興機構(JST)、経済産業省の所管する産業技術総合研究所(産総研)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の5センターが参画している。
その中で主翼を担っているのは、NICT・理研・産総研の3センターであり、それぞれ以下の研究テーマを担当している。
NICTの脳情報通信融合研究センター(CiNet)とユニバーサルコミュニケーション研究所(UCRI)では、自然言語処理、多言語音声翻訳、脳情報通信などの研究を実施している。
理研の革新知能統合研究センター(AIP)では、小規模データから高精度学習が可能となる新たなアルゴリズムの開発など、基礎研究・墓盤技術の研究を中心としている。
産総研の人工知能研究センター(AIRC)では、それらの研究成果を産業分野へ応用する研究などを実施している。
研究開発の動向については、2章「技術動向」を参照されたい。
産業連携会議は、AI技術に関する人材育成、標準化・ロードマップ作成、技術・知財動向分析、規制改革分析などを担っている。
平成29年3月には、同会議での検討結果をもとに「人工知能とその他関連技術の融合による産業化のロードマップ」が策定されており、人工知能技術戦略会議の依拠する産業化ロードマップが示されている。
同ロードマップは、①AI技術が他の関連技術と融合し、②様々な社会課題を解決することで※89、③大きな産業へと成長する、という視点に立脚して策定されている。
①については、技術面での可能性を整理したものとして、AI技術の発展段階が整理されている(図4-5-7)。
② と③については、喫緊の課題かつAI技術による貢献と経済効果が大きな重点分野として、「生産性」、「健康、医療・介護」、「空間の移動」及び横断的な「情報セキュリティ」の4分野について、ロードマップが策定されている(図4-5-8)。
人間中心のAI社会原則検討会議は、2018年5月に設置され、AIをより良い形で社会実装し共有するための基本原則となる人間中心のAI社会原則を策定し、同原則をG7及びOECD等の国際的な議論に供するため、AI技術並びにAIの中長期的な研究開発や利活用等にあたって考慮すべき倫理等に関する基本原則について、産学民官のマルチステークホルダーによる幅広い視野からの調査・検討を行うことを目的としている。
2018年度中に一定の結論を得ることを目指して、検討が進められている(詳細は、「4.3.2我が国における「AI社会原則」の議論」を参照) 。
■図4-5-7フェーズによるAlの発展段階の整理
■図4-5-8Alの研究開発目標と産業化のイメージ
人工知能技術戦略会議では、産業化ロードマップの実現に向けて、CSTIの所管する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)及び官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)との連携が検討されている(図4-5-9、図4-5-10)。
SIPは、CSTIが府省・分野の枠を超えて自ら予算配分を行い、基礎研究から出口(実用化・事業化)までを見据え、規制・制度改革を含めた取組みを推進するプログラムである※92。
PRISMは、民間の研究開発投資誘発効果の高い領域(ターゲット領域)を定め、各府省の施策を誘導して連携を図るとともに、必要に応じて追加の予算を配分することで領域全体としての方向性を持った研究開発を推進するプログラムである※93。
PRISMは新型SIPとも呼称されており、既存SIPとの二本立ての施策として、CSTIによる司令塔機能を通じた相乗効果が期待されている。
■図4-5-9重点テーマの特定とSIP/PRISMを中核とした省庁連携推進(案)
■図4-5-1o Society 5.0の実現のための11システムに対するSIPとPRISMのターゲット領域
以下に、CSTIが所管する3つの戦略的研究開発プログラムのうち、特にAI技術の活用がうたわれているものをまとめた(表4-5-2)。
革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)は、実現すれば産業や社会の在り方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進するプロジェクトである。
■表4-5-2特にAl技術の活用がうたわれている戦略的研究開発プログラム(SIP、PRISM、lmPACT)