あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつある。
こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)※1をスピーディーに進めていくことが求められている。
このような中で、我が国企業においては、多くの経営者がDXの必要性を認識し、DXを進めるべく、デジタル部門を設置する等の取組が見られる。
しかしながら、PoC(Proof of Concept: 概念実証、新しいプロジェクト全体を作り上げる前に実施する戦略仮説・コンセプトの検証工程)を繰り返す等、ある程度の投資は行われるものの実際のビジネス変革には繋がっていないという状況が多くの企業に見られる現状と考えられる。
今後、DXを実現していく上では、デジタル技術を活用してビジネスをどのように変革するかについての経営戦略や経営者による強いコミットメント、それを実行する上でのマインドセットの変革を含めた企業組織内の仕組みや体制の構築等が不可欠である。
また、DXを本格的に展開していく上では、そもそも、既存のITシステムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化する中では、データを十分に活用しきれず、新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用・連携が限定的であるため、その効果も限定的となってしまうという問題が指摘されている。
加えて、既存のITシステムがビジネスプロセスに密結合していることが多いため、既存のITシステムの問題を解消しようとすると、ビジネスプロセスそのものの刷新が必要となり、これに対する現場サイドの抵抗が大きいため、いかにこれを実行するかが課題となっているとの指摘もなされている。
このような現状を踏まえ、経済産業省では平成30年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」(座長:青山幹雄南山大学理工学部ソフトウェア工学科 教授)を設置し、ITシステムのあり方を中心に、我が国企業がDXを実現していく上での現状の課題の整理とその対応策の検討を行い、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』※2として報告書を取りまとめた(平成30年9月7日公表)。
報告書においては、DXを実現していく上でのアプローチや必要なアクションについての認識の共有が図られるようにガイドラインを取りまとめることが必要であるとの指摘がなされ、ガイドラインの構成案について提言がなされた。
この提言を受け、今般、経済産業省は、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者が押さえるべき事項を明確にすること、取締役会や株主がDXの取組をチェックする上で活用できるものとすることを目的として、本ガイドライン『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』(DX推進ガイドライン)を策定した。
本ガイドラインは、「(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2つから構成されている。
DX推進ガイドラインの構成
なお、「攻めのIT経営銘柄2019」※3においては、本ガイドラインの観点を踏まえて選定を行っていくこととしている。
また、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』においては、DX推進に資するよう、「見える化」指標と診断スキームの構築について提言がなされている。
今後、これらの検討においても、本ガイドラインを踏まえていくこととする。
さらに、本ガイドラインは、企業と投資家の建設的な対話を促すために、経済産業省が平成29年5月に策定した「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」(価値協創ガイダンス)※4における基本的な考え方にも沿っており、DX推進に当たっての視点を整理したものとして、「価値協創ガイダンス」と併せて参照することが期待される。
各企業がDXを実行していくに当たり、本ガイドラインが一助となることが期待される。
なお、社会環境や技術動向は今後益々大きな変化が予想されるため、本ガイドラインは、そのような諸環境の変化に追従すべく見直しを行うよう努めるものとする。