「第5期科学技術基本計画」※97(平成28年1月閣議決定)において、
超スマート社会とは、
ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組みにより、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来社会の姿として共有し、その実現に向けた一連の取組みをさらに深化させつつ「Society5.0」※98として強力に推進し、世界に先駆けて超スマート社会を実現していくこととした。
第5回「未来投資に向けた官民対話」(平成28年4月)において、
それを受けて、AIの研究開発・イノベーション政策の司令塔となる「人工知能技術戦略会議」が平成28年4月に発足し、総務省、文部科学省、経済産業省の3省が連携してAI技術の研究開発と成果の社会実装の加速に当たることとなった。
人工知能技術戦略会議の下に、上記3省のそれぞれが所管するAI研究のためのセンター(情報通信研究機構: NICTく総務省>、理化学研究所革新知能統合センター: API<文部科学省>、産業技術総合研究所人工知能研究センター: AIRCく経済産業省>)の研究の総合調整を行う場として研究連携会議を設置するとともに、人材育成、標準化・ロードマップ作成、技術・知財動向分析、規制改革等のテーマについて研究開発と産業の連携総合調整を図る産業連携会議を設置して議論を行っている※99。
平成29年3月には「人工知能技術戦略」※100を公表するとともに、「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」※101を策定した。
この中では、「生産性」、「健康、医療・介護」、「空間の移動」の3分野及び横断的分野として「情報セキュリティ」が重点分野とされ、3センターが連携して研究開発に取り組むとともに、産学官が有するデータ及びツール群の環境整備を行い(表2-10-1)、さらに内閣府のSIP(戦略的イノベーションプログラム)を含め、厚生労働省、国土交通省、農林水産省など出口産業を所管する関係府省のプロジェクトと連携、人工知能技術の研究開発について民間投資を促進することとした。
「未来投資戦略2018-『Society5.0』『データ駆動型社会』への変革ー」(平成30年6月15日)において、
●表2-10-1センターの連携による研究開発テーマ
経済産業省の産業構造審議会産業技術環境分科会研究開発・イノベーション小委員会ではイノベーションを推進するための取組みについて議論が行われた。
平成28年5月に公表した中間とりまとめ※102では、AIを産業構造を一変させうる技術として位置づけ、国費による国家プロジェクトの研究成果の一部であるデータについて、オープンイノベーションによる利活用を促進するためのデータ戦略を検討することも重要とされた。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NewEnergy and Industrial Technology Development Organization; NEDO)では、平成27年度から「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」をスタートし、次世代AI技術分野として①データ駆動型のAIと知識駆動型のAIの融合や計算論的神経科学の知見を取り入れた脳型AIを目指した研究開発、②様々な次世代AIのモジュール化と、それを統合するためのフレームワークの研究開発、③注力するタスクを設定し、研究成果の集約と連携のための標準的ベンチマークやデータセットの整備、⑦人工知能に関するグローバル研究拠点を活用する等による次世代人工知能の社会実装、⑧米国の卓越した研究者を招へいする等により人工知能技術開発を加速するための日米共同研究開発を実施している(表2-10-2)。
また、革新的ロボット要素技術分野として④革新的なセンシング技術、⑤革新的なアクチュエーション技術、及び⑥革新的なロボットインテグレーション技術の研究開発を実施している(表2-10-3)。
また、「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」では、アナログ型抵抗変化素子を用いた脳型推論集積システムの開発や、革新的アニーリングマシンの研究開発等を実施している※103。さらにAI技術の社会実装促進を目的とした「次世代人工知能・ロボット技術の中核となるインテグレート技術開発」及び「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」を平成30年度から開始している。
■表2-10-2「次世代人工知能・ロポット中核技術開発」の次世代人工知能技術分野の研究開発項目
■表2-10-3「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」の革新的ロボット要素技術分野の研究開発項目
経済産業省が所管する産業技術総合研究所では、平成27年5月に人工知能研究センター(Artificial Intelligence Research Center; AIRC)を設立した(表2-10-4)。
主要な目的基礎研究として、①人間の脳の情報処理原理に関する最新の神経科学の知見を包括的に取り入れた人間の脳に近い脳型AIと、②実世界の大量のデータにもとづくデータ駆動型のAIとWeb上の大規模な知識グラフなどにもとづく論理的・形式的な知識駆動型のAIの2つを融合して、大量かつ多様な実世界のデータを深く理解し、人間の意思決定を支援するデータ・知識融合型AIの研究を行うことを目標としている(図2-10-1)。
■表2-10-4 AIRCのチーム構成
これらの目標のため、AIフレームワーク上で要素技術を統合した先進中核モジュールを実装して、製造業やサービス産業などの幅広い分野での産学連携による実サービスから得られる大規模なデータを使った実証研究、研究用データセットなど、AI技術の研究の基盤となるリソースを整備する。
これを通じて、幅広い用途でのAI技術の有用性を提示し、産業競争力の強化と豊かな社会の実現に貢献することを目指している。
具体的には、「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」※105では医療・介護現場、住環境、工場等の模擬環境の整備と個別分野のデータの収集・管理、解析、2次提供を行うデータ基盤の構築等を実施するオープンイノベーション・ハブ拠点を構築、「人工知能・IoTの研究開発加速のための環境整備事業」※106を実施した。
また、深層学習の研究開発の基盤として構築した「AI橋渡しクラウド」 (AIBridging Cloud Infrastructure ;A BCI)は、 2018年8月より運用を開始した。世界のスパコン速度性能ランキングTOPSOOListの5位、世界のスパコンの省エネ性能ランキングGreen500 Listの8位を獲得している※107。
さらに、2018年5月に、日本が取り組むべき今後のAI基盤技術の方向について、①人間と協調できるAI、②実社会で信頼できるAI、③容易に構築できるAIを提案し、意見を募集した。
■図2-10-1AIRCにおける研究開発の取組み
総務省では、総務大臣の諮問機関である「情報通信審議会情報通信技術分科会技術戦略委員会」において、平成28年7月に「次世代人工知能推進戦略※109」を取りまとめた。
本戦略では、我が国で注力していくべき研究開発分野として、8個のテーマが掲げられている(表2-10-5)。
●表2-10-5「次世代人工知能推進戦略」の研究開発テーマ
総務省所管の情報通信研究機構(NICT)では、脳情報通信、音声認識、多言語音声翻訳、社会知解析、革新的ネットワーク技術等の研究開発をかねてより進めている。
例えば、高度言語情報統合フォーラム(ALAGIN)※110では、自然言語処理の研究に資する言語資源• 音声資源の整備を実施している。
また、脳情報通信融合研究センターでは、システム神経科学、情報通信技術、ブレインマシンインターフェース、ニューロイメージング技術やロボット工学の研究を実施している。
さらに、先進的音声翻訳研究開発推進センターでは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年までに、国内の鉄道などの交通機関やショッピング施設、観光地、医療の現場などで活用される実用性の高い多言語音声翻訳技術や、企業などにおいて他国の特許を自動で翻訳できる多言語テキスト翻訳技術などを開発※111するとともに、自動翻訳システムの様々な分野への対応や高精度化を進めるため、オールジャパン体制で翻訳データを集積する「翻訳バンク」の運用を開始した※112。
次世代人工知能推進戦略では、このようなNICTがこれまで整備を進めてきた言語情報データや脳情報モデルを基盤として、全国規模で利用可能とする「最先端AIデータテストベッド」の整備、脳機能に学び知能を理解・創造する次世代AI技術の研究開発、IoT/ビッグデータ/AI情報通信プラットフォームの開発等を推進することとしている。
文部科学省は「人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」(Advanced Integrated Intelligence Platform Project ;AIPプロジェクト) ※113 を推進しており、その研究開発拠点として、理化学研究所に革新知能統合研究センター(AIP)を平成28年4月に設置した。
当センターでは、世界最先端の研究者を糾合し、革新的な基盤技術の研究開発や我が国の強みであるビッグデータを活用した研究開発を推進することとし、具体的には表2-10-6に掲げた3つの領域で研究開発を実施することとしている。
文部科学省は「人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」(Advanced Integrated Intelligence Platform Project ;A IPプロジェクト) ※113 を推進しており、その研究開発拠点として、理化学研究所に革新知能統合研究センター(AIP)を平成28年4月に設置した。
当センターでは、世界最先端の研究者を糾合し、革新的な基盤技術の研究開発や我が国の強みであるビッグデータを活用した研究開発を推進することとし、具体的には表2-10-6に掲げた3つの領域で研究開発を実施することとしている。
■表2-10-6AIPプロジェクトにおける研究領域
2017年4月、AIPは、研究開発成果の実用化加速のために官業界等との連携を強化するため、東芝、NEC、富士通の3社各々との連携センターを開設し(設置期間は2022年3月31日まで)、各社が携わるソリューションを対象に、次世代人工知能基盤技術の開発から社会実装までの一貫した研究を担うこととした(表2-10-7)。
■表2-10-7理研AIP連携センターの研究課題
科学技術振興機構(JapanScience and Technology Agency; JST)では、戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)において、AIPプロジェクトに関連する研究領域をネットワークラボとして束ね、これをAIPと一体的に運営している(表2-10-8)。
■表2-10-8ネットワークラボの構成領域
国立情報学研究所(NII)は、「AIが人間に取って代わる可能性がある分野は何か」といった問題を考える際の指標になりうるAIの客観的なベンチマークを指し示すことを目的として、大学入試問題をAIが解くことに挑戦した「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを、他機関のグループとともに2011年から推進した。
2016年にはセンター試験模試で5教科8科目の合計で525点を獲得、偏差値は57.1に達し、国公立23大学、私立512大学で合格可能性80%以上との判定を得た※116。
NIIは、2017年11月に、AIをはじめネットワーク、クラウド、セキュリティなどの最先端情報技術の活用により医療分野の課題解決を推進するため「医療ビッグデータ研究センター」を設置した※117。
本センターを基盤として、NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET5」※118を活用した医療画像ビッグデータのクラウド基盤の構築、AIによる医療画像解析の研究開発、匿名化した医療画像の収集に学会※119の協力を得つつ取り組むとしている(図2-10-2)。
■図2-10-2医療画像ピッグテータクラウド基盤のイメージ